今号の内容

東京大学工学部精密機械工学科 土肥研究室 (医用精密工学講座)

 医用精密工学講座は、東京大学工学部精密機械工学科の第8番目の講座として昭和55年4月に開設された。これは、医学及び工学分野の学問領域の重なりに伴い、マイクロコンピュータを用いたメディカルエレクトロニクス、高信頼性等の総合技術よりなる高度な医用工学の教育・研究の実施の必要性が初めて認識された結果である。臨床医学における工学の存在は、医療を支える科学として今や従来の基礎医学や薬学などと同様になくてはならないほど重要な地位を占めるようになった。即ち、病人に対する検査、診断、治療、管理の全ての医療行為において数多くの医療機器が使用されており、これらの医療機器の開発に工学は不可欠な存在となっている。特に、先端医療にかかわる医療機器の多くは、電子回路と機械的機構を有し、かつそれらを内臓のマイクロコンピュータで制御と情報処理を行うもので、それらはメディカルメカトロニクス装置と言うべきものである。このメカトロニクスは、医療分野への応用として、単に検査機器や診断機器の分野のみならず、人工臓器などのような直接患者の命に係わる医療機器の分野においても応用されている。さらに、人間の生活を支援する技術としても広く応用され、人間の生命・生活支援技術(Life Support Technology)として重要である。

 本講座は現在においても、全国の国立大学系工学分野で唯一の、医用工学を専門に研究する講座である。本研究室では、医・薬・農など各学部各専門教官・研究者との連携を密にしつつ、コンピュータによる手術支援や人工臓器などの生命支援機器の開発、高齢者並びに障害者に対する生活支援機器の開発、及び各機器の開発に必要な計測制御技術の研究開発を行っている。

 

研究テーマ

1)手術支援システム

 近年の発展目覚ましいコンピュータ技術に基礎を置いた三次元医用画像取得・処理技術、メカトロニクス技術、ロボット技術を始め、レーザー技術や超音波技術などの工学技術を医療分野、特に外科分野における手術に積極的に応用することで、安全・確実でかつ低侵襲の新しい治療方法を確立する研究である。このような各種工学要素を用いた手術支援は、患者や医師の従来の負担を軽減するのみならず、従来外科治療が困難、あるいは不可能とされあきらめられていた疾患に対してもその治療を可能とし、未来の外科、すなわち「手術無き外科」の道を開くものとして大いに期待されている。また、この種の手術支援によりもたらされる患者と医師の肉体的および時間的負担軽減は、患者の早期社会復帰と医療費の削減にも大いに貢献するものと期待される。

 実際の研究内容としては、各種医用画像撮影装置から得られる画像情報を3次元的に処理することで、手術に必要な情報をより直感的かつ正確に抽出し術者に提供する。また、多量かつ良質のこれらの情報をロボット技術やレーザー技術などと有機的に結合することにより、手術全般にわたって支援を行うシステムを開発する。近年実用化されたX線CTやMRIなどの画期的な診断機器から得られる体内組織の三次元的位置情報は、手術支援ロボットを正確に制御するための情報として、またその情報から再構成した三次元医用画像は、術者が手術支援ロボットを操作し、かつ治療状況を適切に判断する上で極めて重要である。この三次元医用画像により、特定の病変組織に対してロボットの本体である高精度マニプレータを制御して精度よく位置決めを行い、手術部位に正確にアプローチすることが可能となる。このような、複数の医用画像をコンピュータで三次元的に合成し、その再構成像をもとにコンピュータ技術を基礎とした様々な技術を用いて、診断のみならず手術の計画やシミュレーション、さらには術中・術後の手術全般にわたる手術支援を行う分野を「コンピュータ外科(Computer Aided Surgery : CASと略す)」と呼んでいる。

 現在、CASシステムと手術支援ロボットの組み合わせによる研究として、肝臓癌の治療を目的とした肝癌焼灼治療用レーザ穿刺マニプレータシステムとCT誘導定位脳手術用穿刺マニプレータシステムの研究がある。前者は、レーザ導光用光ファイバーをカテーテルに通し、開腹下または開腹せずに体表から腫瘍部に穿刺してレーザを照射し、癌組織を凝固あるいは焼灼除去する治療法に応用するものである。脳外科領域の後者は、CASシステムにより、脳の機能領域を避けてカニューレを穿刺する頭部の穿刺位置と最適穿刺方向を決定し、シミュレーション結果に基づいてカニューレ穿刺用ロボットを制御するものである。これにより、従来大きく開腹や開頭しなければ治療が行えなかった種類の疾患に対しても、そのような大手術なしで直接体表面から処置することも可能となる。従って、患者への負担軽減効果は極めて大きく、従来手術をあきらめていた患者の治療も可能にするとともに、近年肝炎やエイズで問題となっている患者から医師などの医療スタッフへの感染事故に対しても問題解決の大きな一助にもなるのである。

 この他にも、CASシステムと他の工学技術の組み合わせや医用画像の処理・解析に関して、以下のような研究が行われてきている。

 また、平成4年度には生体機能運動解析研究設備としてMRI断層装置およびX線透視装置が導入され、画像を中心とした生体情報による生体機能の解析に関して一層の研究が行われている。従来この種の医用画像撮影装置が医学系の研究科に導入され研究・臨床に応用されることはあっても、工学系の研究機関に導入されることはなかった。そのため、工学系の研究者らによる装置の工学的基礎に立ち返った研究の進展が期待される。

2)人工臓器の開発

 人工臓器の開発としては、人工腎臓の小型化・低侵襲化を目指した研究開発を20年来行ってきている。その他、臓器保存の関連から保存中の生体臓器の状態評価の研究、循環系の人工臓器である人工心臓弁の機能評価に関する研究を行っている。研究テーマとしては以下のようなものがある。

3)生活支援技術

 急速な社会の高齢化に対し、単に障害者のみならず高齢障害者に対しても技術的生活・生命支援の工学的研究の確立は急務である。特に在宅ケアが中心となる我が国では、介護する家族の負担を軽減する機器の開発は最も重要である。これまでに、以下のような研究が行われている。


  会 期:1994年10月15日(土)、16日(日) 開催地:東京都港区西新橋3-25-8 主会場:東京慈恵会医科大学高木会館 参加費:3、000円 (学生 1、000円)

開催内容:

1)トピックス:
  画像診断支援、手術支援など
 
2)シンポジウム:
a)外科領域における画像診断技術の進歩
b)合同シンポジウム
  (共催:コンピュータ支援画像診断学会)
 
3)特別講演:
  ベルリン工科大学 Lemke教授 (ドイツ)
  オール大学 Heikinenn教授 (フィンランド)
 
4)一般演題:
 コンピュータ技術を応用した外科治療法に関する研究
 a)コンピュータ応用による新しい手術手技
 b)手術支援ロボットと周辺機器
 c)複数画像の三次元的合成
 d)再構成画像による術前の診断と術後評価
 e)手術計画と手術シミュレーション
 f)術中支援情報
 g)手術立体視システムと人工現実感
 h)内視鏡・レーザ・超音波・マイクロマシン・磁気などの周辺技術
 i)その他

これらの内容に関する演題を多数募集いたします。

応募方法:

a)演題名、氏名、所属、住所、電話番号、FAX番号、発表要約(800字以内)をA4版1枚と3.5インチフロッピーディスクMS-DOSテキストファイルかMacintoshテキストファイル形式にまとめ、簡易書留にて下記までお送りください。

b)宛先と演題名を明記した返信用葉書を同封してください。

c)採否の決定はプログラム委員会にお任せ下さい。採択された方には、折り返し詳細な論文集原稿要項をお送り致します。

d)発表形式は、口演とビデオを予定しています。

応募先:東京都西新橋3-25-8
    東京慈恵会医科大学 放射線医学教室
    第3回 コンピュータ外科学会
        会長 川上 憲司
    TEL:03-3433-1111
      (内線 3361,3362)
    FAX:03-3435-1922
    (事務局:寺崎、加藤)

応募締切:1994年7月5日 (消印有効)

*尚、今回は第4回コンピュータ支援画像診断学会との共催です。


Jurnal of Computer Aided Surgery

(仮称)発刊

 現在、日本コンピュータ外科学会 会誌・編集部会では英文誌 "Journal of Computer Aided Surgery" (仮称)を近日中に発刊することを計画し、準備を行っております。

第1号は依頼原稿を中心に発行する予定でありますが、第2号以降会員の皆様の投稿論文を主にして編集して行きたいと考えております。

投稿規定など詳細が決定次第、会員の皆様にあらためてご連絡いたします。


4月
7-9      日本医学放射線学会
21-23    日本眼科学会
24-26    日本消化器内視鏡学会
 
5月
12-14    日本ME学会
12-14    日本整形外科学会
19-21    日本医科器械学会
 
7月
7-8      日本医用画像工学会
 
9月
25-10/1  国際神経放射線学会
28-30    日本核医学会
 
10月
2-7      国際マイクロサージャリー学会
15-16    コンピュータ外科学会
15-16    コンピュータ支援画像診断学会
24       日本定位脳手術研究会
26-28    日本脳神経外科学会
 
11月
21-23    日本医療情報学会
24-25    日本頭蓋顎顔面外科学会


HyperCAS について:

 Newsletter No.1 にてご案内した手術支援ソフトウェア "HyperCAS" について、会員の皆様より多数のお申込みをを頂きました。

 お申込みを取りまとめた上で4月頃にお送りいたしますので、今暫くお待ちくださるようお願い致します。


投稿,お便りの募集

 CAS Newsletter では,皆様からの投稿やお知らせを募集しています。研究紹介や関連学会参加報告などの奮ってご応募下さい。

 また,皆様からの企画等もありましたらお知らせ頂けると幸いです。

CAS Newsletter  No.2
 
編集:  日本コンピュータ外科学会 広報部会
 
学会事務局: 〒113 東京都文京区本郷 7-3-1	
       東京大学工学部精密工学科
       医用精密工学研究室
  日本コンピュータ外科学会担当 鈴木 真
  e-mail:jscas@miki.pe.u-tokyo.ac.jp
  Tel: 03-3812-2111 内線 7480 
  Fax: 03-3812-8849