今号の内容

名古屋大学大学院工学研究科情報工学専攻
第5回日本コンピュータ外科学会大会長
          鳥脇 純一郎
 

 第5回日本コンピュータ外科学会大会(以下CAS大会と略記)は、96年10月2、3両日、名古屋大学において行われた。過去2回と同様、第6回コンピュータ支援画像診断学会(大会長山本真司 豊橋技術科学大学教授、以下CADM大会とかく)と合同開催である。筆者は、大会長として本会をお世話する立場にあったため、以下の印象記も大会準備者と参加者の立場が入混じり、また、極めて『個人的な印象』であることをお許し頂きたい。

(1)始めにデータをいくつかあげておこう。参加者は177名(参加費を払われた方)、演題数はCASの一般講演43件、シンポジウム6件、CADMとの合同シンポジウム6件、特別講演2件である。いずれも昨年とほぼ同程度の感じである。

(2)大会全体を通じて、参加者が常に40人以上、討論も極めて熱心に行われ、新しい分野の立ち上がりの時期にふさわしい熱気に満ちた会であったという印象を受けた(1日目の最初のセッション(9:00〜)、および、2日目の最後のセッション(17:30頃終了)でさえ、例外ではなかった)。このことは主催者としては誠に嬉しいことであり、深く感謝している。

 会場は、CAS会場として約130名、CADM会場として約95名の部屋を用意した。両者ともに常時数十名が入っており、おおむね適切であったが、特別講演と合同シンポジウムは立つ人が出るくらいでやや不足であった。今後は特別行事に限っては150〜200名の会場が望まれよう。

(3)特別講演としては、福村晃夫教授の「仮想身体と人工知能」、片田和廣教授の「3次元画像診断と外科支援」をお願いすることができた。前者は情報科学、とりわけ、人工知能の立場からみた仮想化人体の考え方を論じられたもので、抽象的考察にウェイトがかかり、恐らくこれまでの本学会大会ではとりあげられたことのないタイプの話であったであろう。 そのため若干とまどいを感じられた方もおられるかもしれないが、それでも、演者特有の軽妙な語り口とご自身の手になるOHPの絵はきき手をひきつけるに十分な味わいを持っていたと見ましたが如何でしょうか。ただ、筆者は、これから3次元画像によるバーチャルな人体を縦横に扱う時代になると、この種の考察も診断・治療という極めて現実的に見える行為と紙一重のところにあるという気がしている。ちなみに、来年(1997年)8月には、第15回人工知能国際会議(International Joint Conf. on Artificial Intelligence 通称IJCAI'97)が名古屋で開かれる予定で、その折に、「仮想身体とコンピュータ外科学」なる講演会を開くことを計画している。

 一方、片田教授のお話は、これとは全く対照的にまさに当学会の中心的テーマを扱うもので、3次元画像とその応用に関する状況と問題点を明解に解説された。CTの登場と共にいちはやく3D画像の利用を提案されたパイオニアの豊富な実例を伴うお話は説得力に富み、オリジナリティの所在、臨床家の観点からの技術評価、などにおける視点の確かさは時に既存技術への鋭い批判をひき出し、工学系の人間にはとりわけ勉強になったのではないか。それにしても、1000×1000×100ボクセルの画像を30フレーム/sec、リアルタイムで出せという要求はまだまだ厳しいものがあります。

 なお、両先生の講演の概要はCADM News Letter(CADMの会員に配布される機関誌)No.18(96.12)に掲載されています。

(4)合同シンポジウム「先端技術と診断・治療」では、コンピュータ診断の論理設計用の画像データベース、CTによる肺がんスクリーニング、テレメディシン、仮想化内視鏡、マイクロマシン、腹腔鏡下手術、といった先端技術応用の最新の成果を実演やビデオを含めた優れたプレゼンテーションによって知ることができ、大いに盛り上がった。端末装置一式を持参された岩田彰教授を始め、周到な準備をされた演者に敬意を表し、ご協力厚くお礼申し上げます。

 CASでは橋本大定先生が企画されたもう一つのシンポジウム「三次元ディスプレイ」があり、また、一般講演にもたくさんの興味ある演題が含まれていたが、実は筆者は全般の進行状況を見るために絶えず移動していたため、コメントできるほどよく聞く時間はほとんどなかったことは大変残念であった。全体的に、CASの方の演題数は、2日間1セッションの枠の下では今回程度が限界である。今後どのような方向へ持っていくのがよいか検討が必要である。

(5)上記のCASのシンポジウム3次元ディスプレイに関連した展示も、橋本大定先生のご尽力により行われたが、CASの参加者が多いためデモは別室での展示に依らざるを得なかった上、場所が離れていたことは、純粋に会場建物の教室の配置のみの問題であったとは言うものの、大会準備側としては誠に申訳なかったと思っている。外科応用では画像と共にメカニズムも関与することが多いため、実物の展示と体験はいっそう有効である。例えばバーチャルリアリティ(VR)における力覚(反力伝達)(フォースフィードバック)を伴う装置は、自らさわって見ない限り本当に理解はできないし、逆に、さわれば一瞬に理解できる。まさしく「百聞は一見にしかずして、百見は一体験にしかず」である。移動やスペースの問題はより大きくなるかもしれないが、是非考えてほしい事柄である。

 CADM側の企画によるデモセッションも本合同学会としては始めての試みであった。これは、コンピュータ支援診断(自動診断)の研究グループがシステムの実演をしつつ発表および討論を行うもので6件の発表があった。詳細は省くがシステムの動作状況を直接体験、観察できることの効果は大きく、CAS、CADMをとわず今後とも活用されるに値する。ただし、システムの搬入等の手数と経費(今回はすべて発表者負担)および場所(収容人数)の問題がともなう。

(6)おわりに 今回は、コンピュータ支援外科学会というもう一つの学会の第6回大会(大会長 藤岡睦久 獨協医科大教授)が同日に隣接建物で開かれていた。結果的にCADM、CASと合わせて3つの学会大会をお世話できたことは光栄であったが、名古屋大学側に人手とスペースの制約も生じた。当日はどの学会の会員でもどの会場へも入れるようにしたりして省力化も試みたが、不備は多かったと思う。本学の事情をよくご理解頂き、工学系の簡素な方式による実行に全面的にご協力頂いた藤岡睦久大会長には厚くお礼申上げる。そして、最後に、本大会の準備全般に采配を振るってくれた筆者の研究室の清水昭伸助手にお礼を申上げる。彼のまさしく八面六臂の活躍がなければ今大会の成功はあり得なかった。また、学会事務局および筆者の研究室に加えて、豊橋技術科学大学知識情報工学系山本研究室、中京大学情報科学部長谷川研究室、名古屋大学大学院工学研究科マイクロシステム専攻生田研究室の大学院生にも全面的にご協力頂いた。そして、事務処理全般を昨年に引続きラボ企画村上昭夫氏に大変お世話になった。合わせて深く感謝する次第である。

 最後に、次の大会は、札幌医科大学(札幌市内)で1997年10月4日(土)、5日(日)に行われ、大会長はCASが橋本大定先生(東京警察病院)、CADMが名取博先生(札幌医科大学)である。コンピュータ支援外科学会は大会長は横井茂樹先生(名古屋大学)であるが、開催地は今のところ未定のようである。

 それでは会員の皆さん、また札幌でお会いしましょう。


 第5回日本コンピュータ外科学会の大会最終日(平成8年10月3日)に 日本コンピュータ外科学会第5回総会が開催されました。事務局から平成7年度の事業報告と収支決算書の報告および平成8年度の事業計画と予算案の提示があり,承認されました。平成8年度には会員数が700名を越え,英文論文誌が2冊発行される予定です(既に1冊発行済み)。その他,以下の報告が行われました。

(1)特許庁・学術団体指定について

 平成8年8月8日,特許庁より日本コンピュータ外科学会が特許法第30条第1項の規定に基づく学術団体として指定されました。この指定により学会発表による新規性喪失に関して学会発表後6カ月以内であれば例外適用を申し立てることが可能となります。ただし,学会発表内容と特許の内容に異なる点があると適用されない場合がある等,制限もあるようですのでご注意願います。

(2)日本学術会議・学術研究団体の登録について

 平成8年9月10日,日本学術会議会員推薦管理会より日本コンピュータ外科学会を日本学術会議法第18条第3項に基づく学術団体として登録するとの通知がありました。なお関連研究連絡委員会名は医療技術開発学研究連絡委員会となっております。


東京大学大学院工学系研究科

片岡 弘之

 1996年6月下旬,フランスのParisにおいてCAR '96が開催され,私は国際学会のデビュー戦としてこれに参加した。初夏のParisの気温は既にやや高めであったが,来訪には良い季節であったであろう。

 開催初日は,午後にTutorialがあるのみだったので,午前中は退屈紛れに貼りかけのポスターや準備中の展示会場を見て回った。展示会場では,画像データベース及びその表示ソフト,あるいは光学式3次元位置センサを使った手術ナビゲーションシステムが多くの面積を占めていたようである。手術ナビゲーションの研究が最近高まりつつあるのは以前から感じてはいたが,ここで数多く並べられているのを目のあたりにして改めて認識させられた。また,これらの展示にワークステーションが当たり前のように使用されている様子も日本と異なり,新鮮な感覚を覚えた。

 2日目からは本格的な講演が始まったが,とりわけ興味深かったのはOpeningで行なわれたTele Medicineの試みである。これは,Berlin-Paris間を衛星で結び,Berlinで実際に行なっている手術の風景やリアルタイムに得られる内視鏡画像などの各種医用画像をParisの会場に3D Visionとして生中継し,会場から手術室に指示を出して手術を進行させるというものである。立体内視鏡や衛星中継など研究の最先端にある機材を用いており,先進的という点では非常に評価できるが,反面,中継のタイムラグが気になる程であったり,機材も動作不安定などの問題を抱え,まだまだ実用には程遠く,それよりも進んだTele Surgeryの実現には恐らく相当な時間が掛かるに違いないと思われた。

 一般講演はCASの分野を主に聞いていたが,その限りでは診断用の3D Visualizationソフトウェアや頭蓋骨の欠損を補うための機器・ソフトウェアに関するものが多く見られた。自分の研究テーマに関連する研究は,国内の学会ではほとんど見られなかったが,この学会では少数だが存在しており,その人達と直接コミュニケーションを取ることができたことは非常に有益であった。また,興味を持って発表の後に質問に来る人に,自分の研究の意義を知って貰えたという点で今回の遠征は有意義であり,同時に積極的に世界に出る必要も感じた。

 最終日はちょっと失敬してParis観光をしていたが,今回の学会参加は自分にとって非常に意義のあるものであった信じている。

 

編集委員から

 CAR'96では41ヶ国にも及ぶ国々から約1,200名の参加者がありました。国別の内訳はドイツ19%,フランス17%,アメリカ合衆国11%,オランダ10%で日本からは7%と5番目の参加者数でした。参加者のうち40%は医学関係者で50%は工学関係者ということです。この他,12ヶ国37の企業による展示会も開催されました。     (CAR'97案内より)


 来年度のISCAS97(コンピュータ外科国際大会)も今年度と同様,CAR '97 (Computer Assisted Radiology and Surgery) との共催で開催されます。以下にその要項を示します。

 会 期:1997年6月25日〜28日
 会 場:ICC-International Congress Center, Berlin
 連絡先:Prof. Heinz U. Lemke 
                    c/o Technische Universitaet Berlin 
                    Inst. f. Technische lnformatik 
                    Sekr. CG FR 3-3 
                    Franklinstr. 28-29 
                    D-10587 Berlin - Germany 
                    Tel.: +49 30 314-73100/104 
                    Fax.: +49 30 314-23596 
                    e-mail: hul@cs.tu-berlin.de 
                    WWW: http://car.cs.tu-berlin.de/ 
 

 一般講演とポスターセッションおよびテュートリアル、デモンストレーションなどが予定されています(6月26日〜28日)。一般講演とポスターセッションに関しては以下のTopicsが取り上げられています。

また以下のTopicsに関する特別セッションも予定されています。

6月26, 27日には以下の展示会も行われます。

学会参加費は以下の通りです。関連する学会員は5%の割引きが適用されます。

         April 25, 1997 以前  以降
 参加費             DM 580 DM 680
 発表者             DM 450
 3人以上のグループによる登録  DM 480 DM 580
         (一人当たり)
 1日参加            DM 340 DM 390
 学生(予稿集無し)       DM 150 DM 170
 懇親会費                DM  90
     (DMはドイツマルク,1DM=約75円)


投稿,お便りの募集

 CAS Newsletter では,皆様からの投稿やお知らせを募集しています。研究紹介や関連学会参加報告などの奮ってご応募下さい。

 また,皆様からの企画等もありましたらお知らせ頂けると幸いです。

CAS Newsletter  No.8
 
編集:  日本コンピュータ外科学会 広報部会
                   (能開大 花房,垣本)
 
学会事務局: 〒113 東京都文京区本郷 7-3-1	
       東京大学工学部精密工学科
       医用精密工学研究室
  日本コンピュータ外科学会担当 鈴木 真
  e-mail:jscas@miki.pe.u-tokyo.ac.jp
  Tel: 03-3812-2111 内線 7480 
  Fax: 03-3812-8849