World Congress 2000 Chicago 参加報告
荒船龍彦
(東京大学新領域創成科学研究科環境学専攻医用精密工学研究室)
2000年7月23日から28日までの間アメリカのシカゴにあるNavy Pier でME国際学会であるWorld Congress 2000Chicago が開催されました.開催期間中は天気もよく,終盤にサンダーストームが近づいたものの眩しい日差しと湖からの涼しい風が心地よく気温も20度前後,と記録的な猛暑だった日本と比べて過ごしやすいものでした.この学会はIUPESM, AAPM, COMP OCPM, AI MBE, EMB の5つの組織により運営され,CASや福祉工学,生体工学,医用工学などME関連の総合的な学会で,学会参加人数も4000人以上と大規模なものでした.
まず学会のおおまかな流れを述べたいと思います.初日はオープニングセレモニーとレセプションのみの開催で,24日からが口頭発表(Oral)とポスターセッション発表による実際のセッションでした.Oral,ポスターは共に午前/午後で区切られ,タイムスケジュールによって両方の時間が重ならないよう配慮されていました.また開催期間中は運営する国際ME組織の理事選出選挙が行われ,日本より東京大学新領域創成科学研究科環境学 土肥健純教授がIUPESM (International Union of Physical for Engineering and Sciences in Medicine)の国際理事に選出されました.26日にはMain Eventと題され著名な研究者を迎えたシンポジウムが主催され,そして最終日には若手研究者の優れた研究を評価するStudent Paper Competition Awards の授与があり,無事6日間開催された学会が閉会しました.
この学会で,私達はOptical Mapping による不整脈リエントリーの計測システム,およびコンピュータシミュレーションを用いたリエントリーの解析を以って発表をし,良い反応を得られました.とりわけ心臓のセルモデル計算によるシミュレーション研究は,日本ではまだ研究者が少なく学会等で議論する機会が少ないのですが,本学会にはそういった研究者が多数参加しており意見交換によって今後の研究方針がより明確になったことが大きな収穫でした.日本に比べて心臓死による死亡率が高いアメリカは不整脈研究では先進であり,学会を通じて各セッションでの活気が盛んでした.中でも最も活気があったセッションの一つが不整脈の非線型解析のセッションであり,不整脈シミュレーションのLuo-Rudyモデルで知られるDr. Rudyら大御所が積極的にセッションに参加し,若手をふくめて大いに議論がなされていたのは大変刺激的であり,国際学会初参加であった私にとってとても有意義でした.また,別の不整脈関連のセッションでは不整脈研究の第一人者Dr. Ideker がスピーチを行い,昔話にある「盲人が象に触れそれぞれ感想を述べるが,総じて象の全体像は把握できず,その動物が一体何物なのかはわからない」というエピソードを現在の不整脈研究になぞらえ,心筋細胞の生化学的挙動や電気的特性,又大まかな治療方針が明らかになりつつありながらその本質が見えにくい不整脈について,まだまだ研究の余地と課題が大きく,その重要度はさらに増していくことを示唆しました.
学術的な内容以外に気づいた点は,やはりPCによる発表が多かったことです.PCを使用する最大の利点は動画が再生できることにあり,各セッションで様々な趣向を凝らした動画が効果的に使われていました.会場では,ホストコンピュータにより制御されたPCが各セッションルームに配備され,演者は発表前日までに持参したPower Point ファイルをホストコンピュータから端末PCへと転送しておく必要があります.今回私が持参したファイルは注意したつもりでも日本語フォントが含まれており,英語OS環境下で使用するとその部分だけ「文字化け」と呼ばれる不可解な文字が表示されてしまい,前日にあわてて修正をするというハプニングがありました.これからの国際学会のあり方として,ますますPCによる発表が増えていくと思われます.発表内容が魅力的になるのと相反して,メディアやフォーマット,そして私の場合のような各国の言語設定の問題等,主催者側の負担も大きくなることでしょう.そのあたりの環境整備も学会運営上課題となりそうでした.
今回のWorld Congress 2000 Chicago は,個人的には自分の専門分野である不整脈研究について様々なアプローチが見られ,まだまだやる事が多いことが再認識されました.
尚,公式HP http://www.wc2000.org/ にてプログラムやabstract を入手する事ができます.