No.004 ニューロナビゲーターを用いて摘出した腰部伏鍼の1例 ○坂井靖夫、渡辺英寿*、秋月種高、向田雅司、大森喜太郎 東京警察病院 形成外科、*同 脳神経外科  住所:〒102 東京都千代田区富士見2-10-41  電話:03-3263-1371 FAX:03-5276-6899


【緒言】
ニューロナビゲーターは、CT上の任意の座標点を、術野において方向および深さを指し示すことにより3次元的に反映させる装置で、主として脳外科領域で高い有用性が示されている。今回我々は、ニューロナビゲーターを用いて摘出しえた腰部伏鍼の1例を経験したので報告する。
【症例】
67歳,女性。平成5年3月3日,他院にて腰痛に対する鍼治療施行中に,折鍼となり鍼が埋入した。他院外科にて精査したところ,X線検査で第1腰椎右側の脊柱起立筋群中に鍼の存在が確認された。同外科にて局麻および透視下に摘出術が施行されたが,摘出に難渋をきたし,患者の忍耐が限界に達したため手術は中止された。患者が,転院して再手術を受けることを強く望んだため当科紹介となった。術前日に、術中と同様の腹臥位で基準となるCT撮影を行い、鍼が前述の筋肉内に存在することが確認された。平成5年4月2日、全麻下に摘出術を施行した。まずニューロナビゲーターを使用して鍼までの最短距離の点を皮膚上に決定し、示された深さを目安に鋭的剥離を進めた。筋層に達っし、目標点を含む3cm範囲の筋肉に鋏を入れたところ、割面より鍼が発見できた。
【考察】
異物摘出に際しては,術前検査で一定範囲に存在することが確認されていても難渋することが少なくない。特に軟部組織内に完全に埋入している場合、かなりの精度で3次元的位置を決定し、剥離を進めなければ目標に到達することはできない。この点でニューロナビゲーターは、術中でも簡便に使用でき、優れた補助機器となりえるものと言える。術中エコーもしばしば用いられ高い有用性が報告されているが、エコーの弱点である硬組織のかげや空気を介した部位などにも、ニューロナビゲーターは変わらぬ力を発揮しえる。今後とも症例を選べば、ますます用途は広がるものと考えられた。